まえがき
子供のころ愛読していた宇宙の本に、過去の大彗星たちの写真が載っていました。ヘール・ボップ彗星、百武彗星、ウェスト彗星……その姿が、すべての天体で一番綺麗だと思いました。
それ以来十数年、私はこの時を待っていました。
人生で初めての、大彗星との邂逅です。
待ち望んだ大彗星を迎えるために巡らせた思考と、大彗星に対峙して得られた経験と、そして目に焼き付いた感動は、二度は得難い大切なものでした。
だから、この記憶が褪せて掠れても思い出せるように、そしてきっと出会えるであろう次の大彗星を迎えるために、ここに残しておこうと思います。
事前準備
まずは観測地の選定から。
離角が小さく観測が難しい条件のため、可能な限り低空を見渡せることが必須です。その上で、星景写真として魅力的な景色となる場所がより望ましい。これら勘案して候補地を三カ所に絞りました。
一つ目は広島県呉市倉橋島最南端付近の海岸。市街地から離れており光害も少なく、島々がフレームに入りながらも水平線まで見渡せるポイントです。
二つ目は同市最高峰の灰ヶ峰展望台。多島美を望むことができ、島々の先に地平線が望める景勝地です。ただし眼下に呉市中心部を望むため光害の面ではあまり良い場所とは言えません。
三つ目は同市重生海のふるさと公園。ここは西側に堤防があり、《星追人》で最も撮りたい構図を押さえられるポイントです。対岸に岩国市を望むため低空の光害の条件は候補地の中で最も悪いと予想されます。
出発直前まで悩みましたが、最終的に灰ヶ峰を選択しました。理由としては、標高を稼いで低空の透明度を少しでも良くしておきたいと思ったのと、どうせ薄明での撮影になるので光害は問題にならないと考えたからです。
続いて機材の選定。
と言っても、彗星撮影は初なので画角の感覚がよく分かりません。どうせ車で行くので、使えそうなレンズは全部持っていくことにしました。10-24mmと18-300mmのズームレンズおよび24mm、35mm、50mm、105mm、200mmの単焦点の計7本。
彗星を捉えるまで18-300mmで捜索し、見つけたら良さげな画角の単焦点に換装するという至極単純な作戦で臨むことにしました。
撮影記録 2024/10/12
日出前に観測できる10月上旬の前半戦は参戦できなかったため、日没後に観測できるようになるこの日がチャレンジ1日目になりました。呉市の日没時刻は17:43、撮影可能時刻は18:13~18:43頃の予想です。
私は日没直前の17:30頃に到着しました。D7500にAF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-6.3G ED VRを装着し、予定通り展望台に三脚を構えます。
天気は快晴、絶好の観測日和でした。
太陽を見送ったのち、焦点距離を70mmに設定して彗星がいると思われる方角を2~3分ごとに撮影。ライブビュー画面で拡大し写っていないかを確認します。
そして18:16。
D7500 AF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-6.3G ED VR (70mm) f3.5 1/10秒 ISO800
画角の右上に写る靄のような光を発見しました。紫金山・アトラス彗星の姿を捉えました。位置を確認できたため、すぐに単焦点に換装します。縦位置で島々を画角に収めつつ、彗星を十分に大きく撮影するため、今回は105mmを選択しました。
そして撮影できたのがこちら。
D7500 NIKKOR-P Auto 10.5cm F2.5 f4 2秒 ISO1600 18:41撮影
言葉はありません。十二分の成果です。
またちょうどこの時間帯、18:35頃から数分だけ、本当に淡くですが肉眼でも核を観測することができました。
撮影後記
初めての彗星撮影でしたが、かなり想定通りスムーズに進んだと考えています。十分に余裕を持ってレンズ換装、構図取り、露光決めを行えたため、理想の画が撮れました。まだ空がかなり明るい18:16のタイミングで彗星を発見できたのが勝因ですが、事前の星図確認とgoogle mapを使用したシミュレーション、余裕を持った現地入り、全てが必須です。次回の彗星撮影時も肝に銘じておく必要があると感じました。
また、今回のような低高度の淡い天体撮影では地平線近くの大気の透明度がかなり物を言うことを実感しました。仮に海岸沿いに出ていた場合、18:41の撮影タイミングではかなり厳しい写りになっていたのではと予想できます。標高を稼いで地平線まで透明度を上げる狙いは結果的に大正解でした。
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